きゃんどる洞窟 CandCave

すらりぬらりとイデアさん[idea]、手記綴ら...

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(avant)

空はいつもと変わらず濁っていた。分厚い灰色の影で覆われ、遠くにゆらりと浮かぶ山々は視えるようでいて、そのどれもに確たるカタチはない。ジーラさんは今は昼だと言う。昼というのは空に陽が昇って辺り一帯が照らされ、光がどこまでもすぅっと澄み渡り、空気がぽかぽかと暖かい時間......らしい。そんな嘘、誰が考えたのだろうか。自分が知っているのは、六期中曇ったままの空、そしてその遥か向こうに横たわる出処のわからない...

302号室の死体

遠くで救急車のサイレンが聞こえた。咄嗟にそちらのほうへ顔を向けそうになるが、直ぐに、目の前に立つ潮風で錆びた時刻表に焦点を戻す。6:42。夥しい程並ぶどうでもいい数字の羅列から、その三つを頭に書き留めると、男は横にいた女にやっと、唇だけの笑顔を見せた。「間に合うみたいだ」上着を羽織るでもないこの時期に、女の小刻みに震えているのが、男には左頬からでもわかった。「これは黄色よ」「いいじゃない、黄色」「そう...

いつかの花 prologue - EQ2

 涼やかな、サラサラとした梢の先の葉が触れ合う音。いつまでもこの風が頬や髪を通り抜けるような、そんな暖かな茜色の森のなかに二つの影があった。「とても綺麗なの。淡い光が幾つも舞って・・・ちょうどこの時期に出てくるのよ。」「へぇ、見てみたいな・・・」「とっておきの場所があるの。ねぇ、これから行きましょうよ!」「すまない、今夜は・・・大事な用事があるんだ」「そう・・・」「明日なら大丈夫だけど」「ほん...

差し伸ばした手の先は

 子どもの頃、暑い時期によく花火をした。友達と昼間遊んだあと、日が暮れてくると一度それぞれの家に帰り数時間後にまた合流するのだ。もう太陽は見えないのに、再び集まって夜に遊ぶのがなんだかいけないような気がして、不思議な感じで、わくわくした。淡い閃光。波音のような光のシャワー。笑い声のなかでひとつだけ透き通った、鈴の微風。その風は、今でも自分のどこかでそよぎ続けている。ただひたすらに世界に心躍って...

雷乙女

 「相変わらずシケた天気だ」いつ頃から降っていただろうか。分厚い雲に覆われ、太陽なんて見えやしない。この世には最初からお日様なんてなかったんじゃないか、そう思えてさえくる程に。「いけねぇ。こっちまで沈んじまう」仕事でも探そう。最近土砂崩れがあったみたいだから、その手の復旧作業員でも募集しているだろう。そうは言っても、こんな天気じゃ肝心の仕事もあるか怪しいが。「よぉ。なんか仕事あるか」「あぁ・・...

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